開業届を出した。名刺の校正も終わり、請求書のひな形も用意した。けれど仕事をする場所は、まだダイニングの端に置いたノートPCひとつ。事務所は「半年くらい様子を見てから」と決めている——開業直後には、こういう宙ぶらりんの期間がよくあります。そこで意外と後回しになるのがネット回線です。この記事では、事務所を借りる前の数か月を、光回線を引かずに乗り切る三つの代替案を、開通までの日数・初期費用・移ったあとに残るものという軸で並べます。料金や工事の可否は住まいの条件や事業者によって変わるため、ここでは目安として読んでください。
開業直後は、仕事場所が「まだ決まっていない」状態から始まる
会社を辞めて独立した人も、副業から専業に切り替えた人も、最初の数か月は売上の形が見えていません。どのくらいの広さが要るのか、来客はあるのか、人を雇うのか。事務所を決めるにはまだ材料が足りないのに、仕事そのものは開業日から始まってしまう。見積を送り、オンラインで打ち合わせをし、請求書を出す。その全部がネットの上にあります。
つまりこの時期に必要なのは「一番良い回線」ではなく、事務所が決まるまでの数か月を、余計なものを残さずに渡りきる回線です。判断の軸がふだんと違うので、自宅の回線をそのまま延長する感覚で選ぶと、あとで手間と費用がかかります。

「とりあえず光回線を引く」が、この時期だけつまずきやすい三つの理由
開通の日が、開業日に間に合うとはかぎらない
光回線は申し込んでから工事の日程が決まり、そこから宅内の作業が入ります。混み合う時期や建物の状況によっては、申し込みから使えるようになるまで数週間から一か月以上かかることもあります。開業日が先に決まっているときは、「いつ申し込むか」ではなく「いつ使えるか」で逆算する必要があります。開通を待つあいだの通信を用意していないと、結局その期間はスマホのテザリングで凌ぐことになり、最初から二重の手間になります。
事務所へ移ったあと、契約だけが自宅に残る
半年後に事務所を借りたとして、自宅の光回線はどうなるでしょうか。住み続けるなら家庭用として残せますが、事業用として引いた回線を事務所へ移すには、移転手続きや再工事、場合によっては解約と新規契約が必要になります。契約期間の途中なら違約金や工事費の分割残債が残ることもあります。引っ越しの月に通信費がどう重なるかは引っ越しの月、ネット代はいくら重なるのかで三か所に分けて数えています。開業直後は、まさにこれを一回多く踏むかどうかの分かれ目にいます。
賃貸や実家では、工事の可否を自分だけで決められない
賃貸住宅や実家で仕事を始める場合、壁に穴を開ける工事や配線の引き込みには管理会社や家主の許可が要ります。集合住宅の設備によっては、希望する方式が使えないこともあります。「引きたい」と「引ける」は別で、確認に時間がかかること自体が、開業直後のスケジュールを押します。固定回線を引かないという判断そのものは、一人暮らし・単身赴任で固定回線を「引かない」判断でも工事費と契約期間の残り方から整理しています。

代替案1:スマホのテザリングで、最初のひと月を渡る
いま持っているスマホからノートPCへつなぐ方法です。新しい契約も工事も要らず、開業日の朝から使えるのが最大の利点で、初期費用はゼロ。契約しているプランに容量の余裕があるなら、最初のひと月を見極める期間として現実的です。
詰まるのは三点です。ひとつはデータ容量で、資料のやり取りやオンライン打ち合わせが続くと、その月の残りが早々に細くなります。ふたつめは電池で、テザリング中のスマホは消耗が速く、外からの連絡を受ける端末が昼過ぎに切れかけるのは事業として困ります。三つめは同時接続で、ノートPCとタブレット、プリンターを同時にぶら下げると安定しにくい。テザリングとモバイルWiFiの向き不向きはテザリングとモバイルWiFiはどっちがいい?にタイプ別でまとめています。
代替案2:ホームルーターを、短い期間だけ置く
コンセントに挿すだけで使える据え置き型です。宅内工事が要らないので申し込みから到着まで数日という例もあり、光回線より始めるまでが短い。複数台を同時につないでも比較的安定しやすく、自宅を仕事場として使う数か月には合います。
ただし、ここでも契約期間と端末代の分割が関わります。事務所へ移るときに持って行けるのか、解約になるのかを、申し込む前に確認しておきたいところです。設置場所の電波状況によって体感が変わる点も、光回線とは性格が違います。短期で畳む前提なら、契約期間の縛りがどうなっているかが選び方の中心になります。
代替案3:チャージ式のモバイルWiFiを、使う月だけ足す
端末を手元に置いておき、通信が必要な月だけ容量をチャージして使う形です。開業直後のように「今月は打ち合わせが多いが、来月は制作にこもる」と波がある時期は、月ごとの差をそのまま費用に反映できます。工事がないので住まいの条件に左右されにくく、自宅でも、間借りした作業スペースでも、客先でも同じ端末で通せます。
事務所を借りたあとも、端末は手元に残ります。事務所の回線が開通するまでのつなぎに使い、開通後は外出用の予備として持ち歩く、という引き継ぎ方ができるのが、短期の据え置き契約との違いです。買い切り・月額契約・都度レンタルの比べ方は買い切りのモバイルWiFiは損か得かで、使わない月がある人を軸に分解しています。
三つを、開業直後の事情で並べてみる
同じ三択でも、見る軸を変えると順番が入れ替わります。開業直後に効く軸は次の四つです。
- 使えるまでの日数:テザリングは当日。ホームルーターは申し込みから数日程度の例が多い。光回線は工事の日程しだいで数週間から。
- 最初に出ていくお金:テザリングは追加ゼロ。ホームルーターは端末代や事務手数料。光回線は工事費が分割で乗ることが多い。
- 移ったあとに残るもの:テザリングは何も残らないがスマホの容量と電池を削る。据え置き型は契約期間と端末の分割が残りうる。チャージ式は端末が手元に残り、使わない月は足さない。
- 同時に使う台数:ノートPC・スマホ・タブレット・プリンターまで見て数える。人を雇う予定があるなら、その人数も先に足しておく。
工期が終われば畳む前提の現場でも同じ比べ方をしていて、そちらは工期のあいだだけ、現場事務所にネットをどう用意するかにまとめています。期間が決まっている場所の通信は、開業直後とよく似た形をしています。
契約と経費で、先に決めておきたいこと
開業直後は、通信の中身より契約の入口でつまずきやすい時期でもあります。最低限、次の三つは申し込む前に決めておくと後が楽です。
- 名義:個人名義にするのか、屋号を使うのか。屋号付きの口座やクレジットカードが間に合っていないなら、個人名義で始めて後から整理する形も選べます。
- 支払い方法:事業用の口座やカードにそろえておくと、帳簿づけが一気に楽になります。支払い方法の選択肢はモバイルWiFiの支払い方法まとめで整理しています。
- 自宅と仕事の切り分け:自宅で使う回線を事業の費用としてどこまで扱えるかは、使い方や状況によって判断が変わります。扱いについては税務署や税理士に確認してください。この記事では金額の判断はしません。
なお、仕事用の通信を家族と共用の回線と分けておくと、証憑の整理も、家族が動画を見ている時間帯の混み合いも、同時に軽くなります。

事務所が決まった日に、どう畳むか
選ぶときに一緒に考えておきたいのが、やめ方です。事務所が決まってから慌てないよう、申し込みの時点で次の三つを控えておきます。ひとつ、契約期間の終わりはいつか。ふたつ、途中でやめた場合に何が残るか(違約金・端末の分割・撤去)。三つ、事務所へ移せるのか、それとも解約と新規になるのか。
この三つを書き留めておくだけで、半年後の選択肢が変わります。開業直後は判断することが多く、通信の契約内容は真っ先に忘れる部類だからです。事務所の回線が開通するまでのつなぎ、開通後の予備という二段構えについては在宅ワーク・出張の“予備回線”に持っておきたいモバイルWiFiも参考になります。
自宅で仕事をする期間の長さ別に、目安を置く
最後に、期間で分けてみます。あくまで目安で、仕事の内容によって変わります。
- 〜三か月:事務所の目処が立っている、または開業直後の様子見。工事を伴う契約は急がず、テザリングかチャージ式で渡るのが身軽です。
- 半年前後:来客はなく、自分ひとりで作業する。月ごとの波が大きいならチャージ式、毎日きっちり使い、同時接続が多いなら据え置き型も候補に入ります。
- 一年以上、あるいは自宅を本拠にする:住まいの条件が許すなら固定回線が有力になります。その場合も、外出時や障害時の予備を一台持っておくと止まりません。外で働く日の備え方はカフェ・出張・ワーケーションで仕事する日の「通信の“保険”」の作り方にあります。
最小で始めて、決まってから足す
開業直後の通信で失敗しやすいのは、機能が足りないことより、まだ決まっていない未来に合わせて長い契約を結んでしまうことです。事務所が決まるまでは、使えるまでの日数が短く、やめるときに何も残らない形を選んでおく。売上と働き方の形が見えてから、腰を据えた回線に切り替える。この順番なら、途中で方針が変わっても損が小さくて済みます。
使う月だけ容量を足せる形なら、動きの読めない数か月を、余計な契約を抱えずに渡れます。
あわせて読みたい
固定回線を「引かない」判断のしかた
工期のあいだだけ、現場事務所にネットをどう用意するか
買い切りのモバイルWiFiは損か得か
テザリングとモバイルWiFiはどっちがいい?
[…] 開業したばかりで、事務所はまだ借りていない|光を引かずに用意する3つ… […]