広島県福山市の南のはしに、鞆の浦という小さな港町があります。行く前にいちばん気にしていたのは「半日で足りるのか」でした。地図で見ると港のまわりに見どころが固まっていて、歩けそうに見える。ただし写真に写っているのはどれも坂と石段で、実際の負担が読めません。結論から書くと、半日で足ります。ただし歩く順番を間違えると、同じ坂を二度のぼることになりました。その記録です。
行く前に迷ったのは「車で行くか、バスで行くか」
鞆の浦は福山駅からバスで30分ほどの場所にあります。迷ったのは車かバスかでした。車のほうが速いのは間違いありませんが、町の中心部は道がとても細いという情報が多く、駐車場の位置を先に決めておかないと入ってから困りそうに見えました。結局、行きも帰りもバスにしました。
これは正解だったと思っています。理由は単純で、この町は道が細いぶん、歩く前提で作られているからです。バス停から常夜燈までは平らな道が続き、荷物さえ軽ければ迷う要素はほとんどありません。逆に、坂と石段は町の奥と高台に集まっていて、そこは車では入れません。つまり車で行っても結局は歩くので、駐車場を探す手間だけが増えることになります。なお便やダイヤは変わることがあるため、当日の時刻は公式の案内で確かめてください。
常夜燈までは、思っていたより近い

バス停から港へ出ると、石造りの常夜燈がすぐに見えます。鞆の浦を紹介する写真のほとんどがここで撮られていて、実物も期待どおりでした。海に向かって立つ灯台のような柱で、かつて夜の船に位置を知らせていたものです。
ここで大事なのは、常夜燈は「最後に来る場所」ではなく「最初に来る場所」だということでした。港のいちばん手前にあるので、奥へ行って戻ってくると必ずもう一度ここを通ります。私は最初に写真を撮りきってしまい、帰りに同じ構図をもう一度撮ることになりました。時間の無駄という意味ではなく、光の向きが変わって帰りのほうがきれいだったので、撮るなら帰りに回してよかったと思っています。
対潮楼は、立って見る場所ではなく座って見る場所だった

港から少しのぼったところに、福禅寺の対潮楼があります。海に面した座敷で、正面に仙酔島と弁天島が見えます。ここは入ってすぐ写真を撮って出る場所ではありませんでした。立ったまま見ると、ただ海が見えるだけです。畳に座って目線を下げると、柱と柱のあいだにちょうど島が収まり、絵のように見えます。
実際、先に入っていた方々は全員座っていました。私は最初それに気づかず立って眺めてしまい、あとから座り直しています。時間で言えば15分ほどの場所ですが、座る時間をとらないと、来た意味が半分になると感じました。拝観の時間や料金は変わることがあるので、行く前に確認しておくと安心です。
町並みの本体は、港ではなく坂と石段だった

行く前に写真で見ていた「町並み」は、港の風景だと思い込んでいました。実際に歩いてみると、この町の本体は港のうしろにある斜面でした。細い路地が何本も山側へのび、その先に石段があり、のぼった先の高台から港を見下ろす——という構造になっています。
高台から見ると、瓦屋根が斜面に沿って段々に重なっているのが一望できます。港から見上げているときにはまったく想像できなかった眺めで、ここが半日のなかでいちばん印象に残りました。ただし石段はそれなりの段数があり、足元は平らではありません。サンダルで来ていた方が途中で引き返していたので、靴は歩きやすいものにしておくことをおすすめします。
うまくいかなかったのは、この三つ
よかった話だけ書いても参考にならないので、失敗も並べておきます。
ひとつめは、路地で自分の向きを見失ったことです。細い道が似た角度で何本も分かれていて、地図を開いても「いま自分がどちらを向いているか」がすぐにはわかりませんでした。二度ほど同じ角に戻っています。
ふたつめは、帰りのバスの時刻を確かめるのが遅かったことです。高台にいるときに調べればよかったのですが、港まで下りてから開いたので、余裕をもって座って待つはずが早歩きになりました。
みっつめは、写真をその場で送ろうとしたことです。高台で撮った町並みを家族に送ろうとしたところ、何枚かが途中で止まりました。あとで気づいたのですが、これは次の話につながります。
通信が細ると感じたのは「路地」と「高台」だった
町なかで通信が不安定に感じた場所は、はっきり分かれていました。建物が両側から迫る細い路地と、のぼりきった高台です。どちらも周囲に何もないわけではないのに、表示が伸び縮みして地図の読み込みが止まりました。あくまでその日その場所での体感なので、状況は時間帯や契約している回線によって変わります。
困る順番も実際に体験してみるとはっきりしていて、いちばん先に困るのは地図ではなく写真の送信でした。地図は一度読み込めば表示が残りますが、写真は送るたびに新しく通信が要ります。高台で撮った数枚を送ろうとして止まったのはこれが理由でした。
それをふまえて、次に同じような港町へ行くなら用意しておくことは三つです。第一に、地図と帰りの時刻表は、電波の良い場所にいるうちに開いておくこと。バス停や港のあたりは問題なく使えたので、高台へ上がる前に読み込んでおけば十分でした。第二に、写真の共有は移動中やお店で座ったときにまとめて送ること。歩きながら一枚ずつ送るのがいちばん効率が悪いやり方でした。第三に、回線を一本に賭けないことです。私は予備の回線を持っていたので、止まったときに切り替えて送りきれました。
とはいえ、旅のためだけに通信を一年ぶん契約するのは、費用の面でつり合いません。使う月だけ容量を足しておいて、使わない月は寝かせておく——という形であれば、旅先で困る場面だけを減らせます。
次に行くとしても、同じ順で歩くと思う
半日歩いてみて、次に行くときも順番は変えないと思いました。バス停 → 港と常夜燈を素通り → 対潮楼 → 路地から石段をのぼって高台 → 下りながら常夜燈で写真 → バス停。この順なら、坂をのぼるのは一度で済みます。
逆に、先に常夜燈で時間を使ってから奥へ向かうと、私のように同じ道を往復することになります。小さな町なので歩けてしまうのですが、石段をのぼり直すのはやはり負担でした。
鞆の浦は、江戸時代に風と潮の向きが変わるのを待つための港として栄えた町です。潮を待つあいだに人が滞在したから、坂の上まで家が建った。そう考えると、この歩きにくさそのものが町のかたちの理由なのだと思えて、石段の印象がすこし変わりました。
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